自分が行動をすれば、やがて世界は動き出す。
僕が最初にその事に気が付いたのは、16歳の夏休みだった。
きっかけは、もちろん「ナンパ」だった。
それまでの僕はどちらかというと、「ナンパ」をするタイプじゃなかった。
もちろん、女の子には興味があったし、付き合ったりした経験もあって、奥手なタイプじゃなかった。
むしろ、ダサいくらいに「クール」ぶっていたのだ。
おちゃらけて、女の子に声をかけるようなグループにいながら、自分では動かないタイプだ。
意を決した誰かが女子グループときっかけをつくる。
幾多の恥ずかしい思いを乗り越えた結果のご褒美として、女子達となんとかお知り合いになる。
その後になって、ようやっと僕は女の子が気になるような雰囲気を醸し出す事に注力するのだ。
マーケティングで言うところのポジショニングのテクを駆使して、存在感を出す事に持てる全てのエネルギーを使っていたのだ。
この作戦は結構Workして、他の男子がアホ丸出しな宴会芸をしている横で、「なんか、あなたって違うね」とか言われることになる。
僕はうそぶく。
「そんな事無いよ。オレには(ナンパしたり、宴会芸する)勇気が無いだけなんだよ。」とかほざいて、女子にこの人は硬派なんだ、彼女になったら大事にしてくれそう、みたいなことを二人に一人の確率で思わせる事に成功していたのだった。
なんということだ!!
一番最低なのは、まさにそういう男だ。
硬派を装う軟派がこの宇宙で一番信用出来ない!
もし僕に将来娘が出来たら、そういうナンチャッテな硬派なハレンチ野郎は一発で見破ってやる、とか後に考えるようになった。
20年後に生まれたのは息子だった。
ところが、16歳の夏につるんだ御ボツ(金持ちのボンボン)は僕の上を行くクール野郎だった。
当然だが二人でいても何もイベントが起こらないのだった。
貴重な10代の夏休みだってのに!
このままでは、友人の家で笑っていいとも!を見て、都営プールに泳ぎに行って、そいつの兄貴から譲り受けた何万冊もの(そう見えた)漫画を読みふけり、機密ルートからゲットしたエッチなビデオを見て夏休みが終わってしまう!
夏に若い男女が集う場所(当時はディスコとかイケてる連中が企画したパーティーだったが)で年中雑誌に載ってるようなイケメン高校生でもなんでもない、クール気取りなただの男二人なんて、面白くもなんともない存在だ。
(幸いニキビ面ではなかった。ツルんとした頬っぺたのカワイイ高校生だった。)
とにかく、彼にはまだ別荘とか、父親名義のヨットとかのネタがあったが、僕にはオヤジからもらう株主優待の映画のチケットくらいしかない。
これは、まさに「今そこにある危機」だった。
クライシスマネージメントとは、危機を回避する為にあらゆる可能性にチャンレンジすることだ。
すなわち、行動するリーダーシップのことだ。
そう主人公のジャック・ライアンは教えてくれたじゃないか。
という事で、今までの座してエサを待つ、という態度を改めた。
一向に動こうとしない友人の間抜けな横面を見ながら思った。
何かを待っていては何も状況は変わらない。
こいつには、別荘とヨットがあるが、オレには何もないじゃないか。
そういうこともあって、僕はおちゃらけなナンパ担当としての明確な意志をもってプロジェクトに臨む事になった。
変わるのは自分だ。
イノベーションとは考えながら行動することだ。
やってみれば「ナンパ」ほど奥が深いものはなかった。
代ゼミの夏期講習よりも10代の僕にとっては勉強の場であり、修練の場になった。
何しろ、「失敗」が前提の行動に他ならないからだ。
「失敗」は「ナンパプロジェクト」においてはデフォルトだ。
化学者の実験室みたいなものだ。
僕にとっての実験室はディスコやパーティーだった。
無視、ならまだいい。
中にはハエを見るような蔑んだ眼差しを向ける女子もいる。
正直ヘコんだ。
プライドがズタズタになるとはこのことだ。
少なからず、女の子から告られた経験を持つオレがこんな目に遭うなんて。。
(小学生の時の数回と中学の時の1回だけだ。)
ナンパは効率が悪い。
世の中に「ナンパ」が好き、という女の子は皆無だ。
逆に「ナンパして〜!」みたいな女子達を僕たちは敬遠していた。
随分勝手な話だが、しょうがない。
後で聞けば、僕の別の友人達は、キレイな女の子が集まるカフェみたいなバイト先や、女子大生が読モをしてるような雑誌の雑用係みたいなバイトを戦略的に選んで夏休みを有意義なモノにしていた。
彼らは戦略的な行動家だったのだ。
当然、優れた戦略家は競合である僕らにはそういうオイシイ話を作戦実行中はシェアしない。
僕は残念ながらそこまでの戦略家ではなかった。
言うなれば歩兵だ。
前線で失敗を恐れていては、前に進む事が出来ないのだ。
失敗が前提だとしても「行動」を起こさなければ、なんの展開も望めない、そう悟った16の夏だったのだ。
失敗は当然、フィードバックして次回に活かす。
最後の方は、心理学の本まで読むようになった。
とにかく尾崎豊の「十五の夜」、みたいなストイックな感じでは何も産み出す事はない、と確信したのだった。
あれ?ちょっと待て。
本当は、広告代理店に20年勤務した僕が、何故会社を辞めてハワイで住む事を決めたのか、行動することでどう世界が変わるのか、ということを書きたかったのが「ナンパ」の話になってしまった。
せっかく書いたので、このまま続けてしまうことにしよう。
この夏の自分イノベーションの結果は目覚ましいものがあった。
幾多のミッション失敗の後、カッコつけで買った6つ穴式のスケジュール帳の電話帳欄は十数人もの女子の電話番号が並んだ。
(当時は携帯電話というツールがなく、家の電話のみだったので、女子の両親のいずれかと最初に話すと言う難所もあった)
何人かとは、個人でもグループでも遊びに行った。
80年代後半の華やかな雰囲気の中で、高校生に出来る精一杯の合コンも企画した。
ほんのり甘酸っぱい思いもした。
「笑っていいとも!」は日曜日の増刊号で見るようになった。
妙にクールぶって自分を作る事も無くなった。
青春っていいな〜オレ今ど真ん中だなぁ、とか素直に思えるようになった。
Credit: flickr Quentin Meulepas |
ストリートスマート、という言葉を思い出す。
机上の空論なアカデミックな理論より、実地での経験を積み重ねる事で実践で使える知識とスキルを得る、みたいな感じだ。
結局、これも自分の「行動」の積み重ねによって、得られる自分なりの「知見」ということだと思う。
たかだか、「ナンパ」だ。
しかし、されど「ナンパ」だったのだ。
今、この歳でさすがにナンパなどしないし、したら「ど」が付く変態だ。
ただ、あの「自分で動かなければ、世界は止まったままだ」という感覚は今も心の奥底に宿っていると気が付いた。
16歳のあの夏、僕がクールぶって行動をしなかったら、愉快で痛快でそしてちょっと切ない夏休みは、きっとやってこなかっただろう。
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